「中国の外国企業のコンテンツ配信禁止」で振り返る中国、ロシアのインターネット規制の動き

中国が、外国企業のインターネットコンテンツ配信を禁じる規定を現地時間2016年3月10日より施行することを発表したと、複数の米メディア(New York TimesやForbes、Digital Trendsなど)が報じています。

 

国家による大規模なインターネット規制の最新の事例としてより多くの注目を浴びています。

 

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この件をより深く知るためには、これまで中国・ロシア等の共産主義国家が国連を舞台にして国家によるインターネット規制の枠組みを推進しようとしてきた背景を振り返る必要があります。このエントリーでは、それについて簡単に振り返ろうと思います。

 

 

背景

 

もともと中国やロシアは、その国家の体制柄、インターネットは政府や国家が管理すべきだと主張し続けてきています

 

例えば、2011年に、中国、ロシア、タジキスタン、ウズベキスタンの4カ国は、国連に情報セキュリティ国際行動規範の試案を提出しました。これらの国々は、サイバースペース(インターネット)で各国が責任のある行動をとるために国際行動規範を作るべく、国連総会がこれを議論すべきだとしていました。

 

国連はこの提案を受け、15カ国の代表による政府専門家会合(GGE)を開催し検討を求めることになります。GGEとは各国政府の中から特定の専門家を集めたグループのことです。例えばこれまでに宇宙活動等について検討するために招集されたこともあります。今回はサイバースペースのこの問題に関するGGEです。今回は第三回目のサイバースペースGGEです。

 

この頃、情報セキュリティをめぐっては、アメリカを中心とする自由主義諸国と上海協力機構(SCO)に参加する国々の間に対立構造が生まれていました。SCOは1996年に成立した上海ファイブ(ロシア、中国、カザフスタン、キルギス、タジキスタン)の首脳会議を前身にウズベキスタンを加えた6カ国による協力組織で2001年に成立しました。

 

ロシアやSCO諸国は、国家がマネジメントするべき情報セキュリティを、インフラストラクチャと情報そのもの(あるいはコンテンツとしての情報)を含む幅広いものを定義しようとしていたのに対し、アメリカ等は、表現の自由を支持する見地から、情報セキュリティの定義をインフラストラクチャに限定すべきとしていました。

 

従来のロシアの主張を簡単に言うと、国家の安全保障のためなら情報インフラストラクチャだけではなく、情報そのもの、コンテンツでさえも国家が管理すべきだ、というものです。要は、個人の発信する情報、SNS利用そのものも国家の管理下に置きたいという考え方です。

 

今の中国がその主張を引き継いでおり、主に2つの主張軸を作り議論展開しています。

 

1つは、欧米の主張するような民間に任せるインターネット・ガバナンスではなく、政府や国際機関がサイバースペースに責任をもつべきだ、というもの。

 

もう1つは、サイバースペース(インターネット)は新しい特殊な領域であり、既存の国際法を適応するのではなく、新しい条約等で対応すべきだ、というものです。

 

これらを主張するロシアや中国の思惑は、1つ目に対して、各国ごとの主権をサイバースペースで認めさせることで、独自の政策判断に基づく規制や介入を可能にしたいという意図があります。わかりやすく言うと、「インターネットは自由だ!」とアメリカの政治活動家ジョン・ペリー・バーロウが宣言した「サイバースペース独立宣言」を覆そう、という狙いです。「自由なインターネットはだめだ!俺たちが管理する!!」という立場です。

 

2つめに対しては、従来の国際法が適応されると、言論の自由や通信の秘密等の人権がサイバースペース内でも適応されることになります。例え政府の介入が認められるようになったとしても、通信傍受や検閲がしにくくなってしまう、、共産主義国家にとっては大打撃です。。。だからこそ、「サイバースペースは新たな領域で既存のルールは適応されない!」検閲や規制を行いたい中国やロシアが積極的に枠組みづくりに参加し新たな条約を作りたい!という思惑が裏に存在するのです。

 

そもそもサイバー攻撃の定義も中国・ロシア、アメリカでは異なっています。中国・ロシアでは、SNSでのデマや国家にとって都合の悪かったり、まずい情報の拡散も、サイバーテロとして定義されているんです、びびる、、、

 

このような背景もあり、GGEでは対立が深まり議論は難航します。

 

サイバースペースの国際規範の構築における既存の国際法の取り扱いについて、議論は揉めに揉めていました。

 

先ほども上で述べたように、中国、ロシアは国際規範には新たな枠組みが必要だとし、前述の2011年の4カ国からの提案をベースに設定しょうとしている一方で、日米欧は結束し、国連憲章を含む既存の交際報がサイバースペースにも適応されるという立場をとりました

 

結果的に、国際交渉ではよくあることですが、双方にとって都合の良い文言が会議の結果として選ばれ公表されます。1つ例を紹介しましょう。

 

【第16段階】

 国家によるICT利用にとって重要となる、既存の国際法から導きだされる規範の適応は、国際的な平和、安全保障、安定へのリスクを減じるのに不可欠な措置である〜ICTのユニークな特性に鑑みれば、追加的な規範がやがて発展し得る。

 

 既存の国際法は不可欠(日米欧立場)、追加的な規範がやげて発展し得る(中国、ロシアの立場)という含みの在る文章に。

 

【第19段落】

国際法、特に国連憲章は、平和と安定を維持し、オープンで、安全で、平和的で、アクセス可能なICT環境を促進するために適応可能(applicable)であり、不可欠である。

 

国連憲章というユニバーサルな国際法が適応可能であるという点に関しては日米欧の主張に近くなっているものの、「適応される(applied)」ではなく、「適応可能(applicable)」と含みをもたせた表現を用いることで、中国やロシアが納得しやすくなったことになる。

 

結果的に、第3回のサイバーGGEでは、ロシアが提起し中国が引き継いだ「ネットは国家が規制すべきだ」というような国際的な枠組み・条約を作ることに合意はされず議論は持ち越されたと専門家の間では見られており、よりロシア、中国と日米欧の対立構造が明らかになり、溝が深まってしまう結果になりました。今回は1つの例として第三回サイバーGGEを取り上げましたが、その他にも中国やロシアは「インターネットは国家、政府が管理すべきだ」という主張を元に様々な行動を様々な国際関係の舞台で表明しています。

 

まとめ

このように、既に国連を始めとした国際関係の舞台で、国家や政府によるインターネット規制については度々議論が重ねられてきています

 

インターネットは自由だ!、民間のガバナンスだと言う日本を含めた欧米諸国。インターネットは安全保障の観点からも、そのインフラストラクチャやコンテンツまで全て国家が管理すべきだ!と言う中国、ロシア。例に上げた会合の後も様々な場は設けられ、様々な決まり事や指針は出てきていますが、対立は現在もなお続いていますし、溝も深まるばかりです。

 

書きたいことはまだたくさんあるのですが、この背景を知るだけでも、中国のインターネット規制についてより深く知る切っ掛けになると思います。ぜひ、興味を持たれた方は、参考文献に記載した本を読んでみてください。そして、引き続きロシアや中国等の共産主義国家のインターネット規制に対する政府の動向に着目してみましょう。

 

参考文献

・土屋大洋『サイバーセキュリティと国際政治』

サイバーセキュリティと国際政治

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